2007年1月4日木曜日

青いパパイヤの香り|L’ODEUR DE LA PAPAYE VERTE


1951年、ベトナム戦争前の平和だったころのベトナム、サイゴンが舞台。下働きの使用人としてまだ10歳の女の子ムイが田舎からやってくる。一見平和そうに見える家庭の日常の生活シーンを、淡々と丁寧に、言葉少なに描いていく。

極めて単純明快なスカッとした映画、青春恋愛ものなどを期待する人は、もしかしたら退屈で、きっと寝てしまう。台詞は少ないし、ストーリーも変化が少ない。でも、2時間、ぜんぜん飽きなかった。言葉が少ないかわりに映像がすごく美しくて饒舌。料理、配膳、草木の水やり、床掃除、虫鳥の鳴き声、蟻、汗、雨、室内インテリア、、、そして主人公のしぐさ。とにかく繊細で細やかな描写が続く。ストーリーが速いテンポで展開していかないかわりに、観る側が細かなところまで、いちいち素材の質感までも、しっかり噛みしめる時間をもらえていたかのようだ。

この技術はどこからきているのか。ベトナムが舞台で、話される言語もベトナム語。監督もベトナム人だし、キャストもベトナム人。しかしこれはフランス映画だ。あるいはベトナム人がフランス映画を撮ったというようなものだろう。

リアルさで言えば、もっと湿気があるだろう、とか、太陽の日差しはもっと強いはずとか、最近ベトナムに行ってきたのでちょっと思った。しかしそもそもこれは、リアルを追求したドキュメンタリーではなく、リアリティに執着して作り込まれていた映画のはず。全編フランスでのスタジオ撮影だというが、だからこそ、繊細な映像の完成度、監督が執着する作り込みに執着して、本物以上に本物らしくすることができたのだろうと思う。

もちろん、フランスがこの映画を作ったのではない。監督、トラン・アン・ユンがいたからこそできた映画だ。フランスでどんな勉強をしてどんな人に影響を受けたのか、知りたくなった。勝手な想像では、、、やっぱり、フランスのヌーベルバーグの作家たち、特にルイ・マル。もしかしたら、ヒッチコック、小津安二郎あたりもあるか。(調べたら確かに小津、それに黒澤、溝口の影響もあるらしい)

それにしても、最近よく見る台湾とか中国の映画でも、映画監督はアメリカやヨーロッパ(フランス)や日本に影響を受けていて、自国のトラディショナルな良さを生かしつつ、ほかの良いところを吸収しているのを感じる。「あそこの国の映画は、、、」みたいなステレオタイプな見方は、これまでよくあったし、私にもあったけど、もうそういうのは古いな。

  • 詳細 http://movie.walkerplus.com/mv16415/
  • 1993年/フランス・ベトナム/104分
  • あらすじ - goo 映画
  • 監督・脚本:トラン・アン・ユン Trần Anh H�ng
  • 撮影:ブノワ・ドゥローム Benoit Delhomme
  • 音楽:トン=ツァ・ティエ Ton That Tiet 
  • キャスト:トラン・ヌー・イェン・ケー Trần Nu Yen Khe (ムイ20歳)、リュ・マン・サン Lu Man San (ムイ10歳)、グエン・アン・ホア、クエン・チー・タン・トゥラ、ヴォン・ホイ
  • 受賞:カンヌ国際映画祭(カメラ・ドール)(1993)