2014年10月2日木曜日

推手|すいしゅ|Pussing Hands


アメリカ人女性と夫の中国人、北京生まれの祖父朱老人。家族であっても、容易にわかりあえない双方のもどかしさを中心に、全編通じて人間関係が描かれるが、それが太極拳の優雅な動きを挟みながら描かれる。それがなかったら辛いだけのシーンも、気持ちを切らさずに見せていく。

中で、印象深かった言葉を2つメモ。

「相手のバランスを崩して自分の安定を保つ。攻められたらその力をかわし、相手にそれを返す。力を抜いて、抵抗せず、手は接触させたまま・ ・・」

最後の方で、朱老人の息子が「推手」(=太極拳)について説明をするのだが、それが、人と人との付き合い方を普遍的に表しているようで面白い。

「あんた中国出身だな。中国ではなんでも分け合うんだろ。その考えが怠け者をつくる。役立たずめ。中国へ帰って他人のスネをかじれよ。ここはアメリカだ。分け合いはしない。自分のものは自分で稼ぐんだ」

これは、朱老人と対立する中華料理店のオーナーの言葉だ。

現在の中国だったら、アメリカと価値観は近い気がするが、そのまた昔の朱老人が生きた北京はそうだったのか(分け合っていた)と思うと、それが失われたのは(たぶん)ちょっと残念な気がした。また、当時は古い中国とアメリカの対比の表現だったのだろうが、現代の日本とアメリカ・中国との違いにも思えてしまった。

終盤に向けて、対立していた関係も表面的には穏やかになっていく。しかし、最後に朱老人が心を許せるようになるのは趙夫人。育った場所、時代が同じで、たぶん良し悪しの価値観がとても近い超夫人と近くなり、その他の人とは距離を置く。推手は処世術、かわすテクニックであって、結局は、世代価値観が同じ人との方がうまくいくと言っているように思えた。

推手的なやり方が大切だということを描いて終わるのかと思っていたら、所詮それはテクニック、必要悪だよ、簡単にわかりあえたりしないさとつぶやいているようで、またこの監督は癖があるなと感じた。とても考えさせられることが多い、良作だった。

  • 1991年 / 台湾 / 108分 ※アン・リー監督の商業映画デビュー作
  • 原題 推手|Pussing Hands
  • 監督:アン・リー 李安 Ang Lee
  • キャスト:ラン・シャン 郎雄(朱老人)、ワン・ライ 王莱(陳夫人)、ワン・ボー・チャオ 王伯昭(アレックス 暁生)、
  • 詳細 http://movie.walkerplus.com/mv29722/